第4回 ニューヨークコンドミニアム購入編

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マンハッタン・コンドミニアム購入計画~失敗談!~

皆さん、こんにちは。
サラリーマンと不動産投資家の両立を目指す早杉富士夫です。

前回は、ハワイのホテルコンド投資についてお話しましたが、今回は2年前に経験したニューヨークミッドタウンにある中古コンドミニアム投資の失敗談を取り上げたいと思います。
「ニューヨーク」に不動産を所有することは、キャピタルゲインやタックスコントロールを目的とする投資ではあるものの、日本、ハワイ、アジア地域の不動産投資とは違い、海外不動産投資対象として憧れの場所ともいえます。
投資効率の観点からは、表面利回り4~5%台と高くなく、室内も狭く古めかしい物件が多いので、海外投資の最初の候補地としてはとてもお勧めできる地域ではありません。
それまでに国内、ハワイ、マレーシアで投資してきた経験があり、私のメンターが実際にニューヨークに不動産を所有していて、マーケット特性、米国税制、資金調達、契約手続きなどの情報を事前に入手できたことなどが後押しとなって、リーマンショックからまだ回復途上にあった2013年11月にニューヨークに向かいました。

マンハッタンの不動産事情

ニューヨークは、2012年3月以来の4度目の訪問でしたので、前回訪問の時よりさらに街は華やいだ雰囲気を感じました。
ハワイでお世話になった不動産仲介業者のニューヨーク拠点の協力を得て、事前に選んだ売り出し中の中古コンドミニアム6物件を2日間かけて見て回りました。

場所は、ロックフェラーセンターやクライスラータワーがあるミッドタウンのイースト、アッパーイースト、ウェストを候補にしました。
せっかくニューヨークに不動産を持つならできる限りセントラルパークに近く、摩天楼のようなビル群を眺められるマンションが夢だったので、多少古くて狭くてもロケーション重視で探しました。
サイズはワンルームから1ベッドルームクラス、築年数は築30年から70年程度、購入価格は55~60万ドルあたりをターゲットとしました。

しかし、このクラスの平均家賃はミッドタウンイースト地区で$2,300~$2,700/月ですので、グロス利回りは6%前後、建物管理費や固定資産税を差し引いたネット利回りでは3%台、さらに委託管理費(家賃の7%~10%)を差し引いた最終的な利回りは3%を割る水準まで落ちます。当時のローン金利は30年固定で4.875%でしたので、少なくとも50%は自己資金を投入しないと毎月のキャッシュフローがマイナスになってしまいます。それでも、①日本の税法上の減価償却メリットを勘案すればキャッシュフローはプラスとなる可能性が高いこと、②将来の価格下落リスクが相対的に小さいこと、③テナントは1カ月以内に確保することができること、④売却時の流動性が相対的に高いこと、⑤当時は家賃、物件価格ともさらに上昇が期待できたことなどの理由から、このタイミングでニューヨークの不動産購入をなんとか成功させたいとの気持ちでいました。

ちょうどニューヨークマラソンが開催されている最中に1日かけて「オープンハウス」の物件を複数見学しましたが、どの物件にも他の投資家が見学中で、その場で現金買いの交渉をしている方もいました。
とにかく売却リストに載ればほぼ1週間以内に売れてしまうほどで即断即決が不可欠な状況でした。
私はいくつかの物件の中から、グランドセントラル駅に近く、レキシントンアベニューのマリオットホテルに近接するコンドミニアムのスタジオタイプの部屋にターゲットを絞り、テナントが付いていなかったことを勘案し、売却希望価格を下回る価格でオファーを入れました。
帰国後に、幸いにも売主のエージェントから受諾の連絡がありました。これには不動産仲介業者の方も驚いたようで、ここ数回オファーを入れても成約に至らず、あきらめてそのまま帰国の途に着いた投資家が多数いたと聞いていましたので、朗報を聞いた時は本当に運がいいと思ったものです。

難航した銀行審査

早速、不動産仲介業者が現地の弁護士を交えて売買契約書の作成、管理組合の承認申請、手付金の預託などの手続きを進めました。
銀行借入については、ニューヨーク滞在中に、HSBCのニューヨーク支店のローンオフィサーに相談し、事前仮承認レターをもらっていたので、バンクローンの本審査についてはさほど時間がかからず承認されるだろうと考えていました。
それゆえ、不動産仲介業者の方ともテナント付けの条件を打ち合わせ、ベッドや家具、テレビ等の選定まで進めていました。同時に、HSBCからローンの金額、金利、返済条件などの確認メールが届き、預金口座開設のための書類、審査に必要な証明書類などの一覧をもらい、売り主との間で最終決済を2014年1月中に行うことを決定しました。

必要書類は、最近3カ月間の給与明細、有価証券・預金残高、会社の雇用条件などの英文証明書、ハワイのバンクローンの明細、大口資金移動の資金使途、自署のサイン公証など、用意するだけでも相当な手間がかかりました。
年が明け、HSBCのローン承認の報を待っていたのですが、なかなか承認が下りたとの連絡が入ってきません。
売買契約書には2カ月以内に決済できない場合は契約を破棄することができる文言が入っており、その期限が迫っていましたので、不安が募ってきました。幸い売り主との間で決済期限を延長する合意が成立し、契約のキャンセルは逃れましたが、時間的猶予はほとんどありません。

どうして承認が下りないのか、不動産仲介業者の方を通じて理由を尋ねてみました。真偽は定かではありませんが、HSBCが金融当局からマネーロンダリング(資金洗浄)について検査されているらしく、その影響で新規のローン審査にあたって資金の出処を厳しくチェックしているとのことで、特に私のローン審査については、大口資金移動の内容に不審な点があるとして徹底調査されているとの話でした。
USDを用意するためにFX業者を介してドルを受け取り、シティバンクから決済用の口座に送金しており、このFX業者との間で行われているこの為替取引が不自然と見られたのかもしれません。

この取引スキームを説明するために、大口資金移動の使途や資金の流れがわかる英文資料を作成し、HSBCのローンオフィサーにメールで直接送りましたが、審査担当者からはなかなか返事がありません。
後に聞いた話では私以外にも複数の日本人投資家がローン承認が下りず、困っていたようです。

痛恨の契約破棄通告

既に2014年2月に入っていましたが、以前としてHSBCの審査が続いており、さすがに売り主の方も我慢の限界といった様子でした。
そしてついにしびれを切らして2月中に承認が下りない場合は新たな購入者を探す旨通告してきました。私より高い価格のオファーがあればその購入希望者との契約を優先するということで、いよいよタイムリミットが近づいてきました。
私は焦って何度もHSBCの担当者に早く承認レターを出してほしいと依頼しましたが、回答がないまま3月を迎え、売り主が再度売却広告を出した結果、すぐに私の条件を上回る購入希望者が現れ、私との契約は正式に破棄する旨の連絡がありました。

これまでの努力がすべて水泡に帰してしまい、私自身、その心労からかしばらく体調がすぐれませんでした。
正式破棄通告から10日間ほどたってHSBCからローン承認が下りたとの連絡がありました。
さらに自宅にHSBC USAの普通預金口座のキャッシュカードとクレジットカードが郵送されてきました。
「何をいまさら」、怒りを通り越してあきれました。
この後、不動産仲介業者から、手付金の返金とともに、ローン審査費用、弁護士費用など$2,500余りの請求があり、これを支払って今回の一連の契約キャンセルの手続きが終了しました。
実に売買契約締結から5カ月以上が経過していました。

ニューヨーク不動産取得にあたっての留意点

念願のニューヨークの不動産取得は残念ながら実現には至りませんでしたが、この失敗談から多くのことを学んだのも事実であり、皆さんが今後ニューヨークの不動産投資を検討される際の留意点をまとめてみました。

  1. 物件選定
    即断即決が重要ですので、実査する前から希望の条件をはっきり不動産仲介業者の方に伝え、合致する物件リストを送ってもらいます。ただし実査するまでにリストに載った物件が売れてしまう可能性が高いので、それに近い候補物件をすぐに提示してもらえるよう、場所、物件価格、築年数、間取り、利回りなどこれなら購入できるという条件を固めておくことが必要です。
  2. 物件実査
    日曜日はオープンハウスとなる物件が多いので、できるだけ多くの物件を見て回れるよう内覧のスケジュール調整をしてください。私はミッドタウンのイースト地区中心に視察しましたが、ウェスト地区、南ハーレム地区、ブルックリンなども人気が上昇しています。エンパイアステートビルやクラスラ―タワーが見えるコンドミニアムならミッドタウンのイースト地区がお勧めです。お気に入りの物件が見つかったら迷わずすぐにオファーを入れてください。運よく相手が売り急いでいたら売却希望価格を下回る条件で受けてくれる可能性があります。
  3. 物件価格
    ミッドタウンではスタジオタイプで60万ドル前後が中心価格かと思います。当時は価格が上昇しており、売却希望価格を上回るオファーもざらでした。現金決済の購入希望者を優先するため、ローン前提の場合は提示価格が同じ場合交渉上不利になることを覚悟してください。また、相場観を知りたい場合は、以下のURLを参考にしてください。
    https://www.cityrealty.com/nyc/market-insight
  4. 家賃水準
    ミッドタウンイースト地区では、スタジオタイプで家具付きの場合$2,500/月~、家具なしだと$2,300/月~が大体の相場かと思います。物件価格の上昇に比べると家賃の上昇は緩やかでそれゆえ投資利回りは低下傾向にあります。空室率は1~2%と言われており、相場水準の家賃であればすぐに次のテナントが見つかるマーケットかと思います。

そのほか詳しい情報は以下のURLを参考にしてください。日系の不動産仲介業者ですが、諸費用や手続きの流れなどがわかりやすく記載されていると思います。
https://www.starts.co.jp/kaigai-real-estate/newyork/

(追報)ニューヨーク不動産の最新情報

2015年7月に仕事で2年ぶりにニューヨークに行ってきました。
前回と同じ不動産仲介業者にお願いして1日内覧してきました。
ニューヨークは世界中の旅行者で賑わっており、不動産マーケットはますます活況を呈していました。私が前回購入できなかった物件は他の部屋がいくつか売りに出ていましたが、当時より20%程度値上がりした印象で、当時の悔しさがふつふつと蘇ってきました。
セントラルパークの北にあたる100丁目あたりもすでに価格が高騰しており、投資利回りが低く、ローンを前提にするとキャッシュフローがマイナスになります。円高の時ならそれでも購入したかもしれませんが、さすがに1ドル120円台では為替差益も期待薄で減価償却メリットのために投資するだけの意欲はわきませんでした。
また、購入する機会が来ることを祈って、ニューヨークの地を離れました。